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以下はそのトークの様子を書き起こしたものです。
田中:まずは、本作を観た率直な感想をお聞かせください。
山村: トークをするということで、事前にテレビモニターで一度プレビューさせていただきましたが、皆さんと一緒に大画面で観てみて、一人でプレビューしたときよりもさらに面白く感じました。睡魔に襲われた方もいらっしゃるかもしれませんが、これは意図的だと思います。催眠的な音楽と映像もあり、白黒ながらもサイケデリックで、20世紀のさまざまな芸術の引用が端々に見えて、まるで20世紀から未来を見たようなレトロフューチャーな印象を受けました。
各章にタイトルがついていますが、全体としては「ガラスのバベルの塔」というのが一つの大きなモチーフになっていて、そのバベルの塔が最後、崩壊するという形で終わっています。バベルの塔は人間のある種の英知のおごりで、天にも届く塔を作ろうとして神の怒りを買い、壊されるという旧約聖書の神話ですが、バベルそのものを我々の現代の英知に置き換えたような設定の映画かなというふうに捉えました。
田中:本作は、一般的には非物語的な作品と見なされうるように思われます。しかしながら、山村さんは本作に物語性を見出しているようですね。本作の物語について、山村さんなりの解釈をお聞かせください。
山村:初見は非常に抽象度が高い作品だと思いましたが、2度目の鑑賞では、章ごとのタイトルが物語性を持って構築されていることに気付きました。セリフはなく、登場する人物や鳥などの具象的な事物もやや半抽象的に表現されていますが、作品の中から読み取れる様々な引用やヒントを繋げていくことで、ちゃんと物語になることがわかりました。
僕が読み取った大まかなストーリーは、ガラスのバベルの塔に閉じ込められ、人間性を失っていった人類が塔によってハイパーコネクテッド、ネットなどを介しての複雑な繋がりを持つものの、最終的にそれがバラバラにされるというものでした。バベルの塔の伝説も同様に、塔の崩壊によって言語が世界中に散らばり、私たちのコミュニケーションが困難になったという神話です。要するに、ディスコミュニケーションが大きなストーリーの流れになっていると感じます。
ボリス・ラべの類いまれなグラフィックのセンスは言うまでもありませんが、本作はもともと、アルゼンチンの現代作曲家ルーカス・ファギンが作曲した音楽に基づいており、演奏会のバックで流す映像として作られたものだそうです。実際のライブコンサート版を観た方が楽しめる可能性は高いと思いますが、この長編版のほかに、コンパクトにまとめた短編版もあると聞いています。
ストーリーに関しては、各楽曲をルーカス・ファギンが作り、9つある章のタイトルも恐らく音楽のタイトルに由来しているのではないかと想像します。制作の成り立ちから考えると、ボリス・ラべが音楽のコンセプトに沿ったビジュアルイメージを作り上げていったのではないかと思います。
ボリス・ラべのWebサイトには、ルーカス・ファギンの音楽のインスピレーションとして、リゲティの室内楽団、ピンク・フロイドのアルバム『The Dark Side of The Moon』の収録曲「On the Run」、ヴィクトル・ヴァザルリの睡眠絵画が挙げられていて、この三つが全体のビジュアルにも大きな影響を与えていると考えられます。
田中:我々が山村さんにトークを依頼をした際、返ってきた言葉が「紹介文を読むよりもわかりやすい作品だった」というものでした。思うに本作を難解にしているのは、作品それ自体の構造というよりも、「ナラティブ/ノンナラティブ」という二項対立を前提に作品を鑑賞してしまう先入観が理由かもしれません。
山村:オタワ国際アニメーション映画祭でも「ナラティブ」と「ノンナラティブ」の2つにカテゴリー分けしていますが、これは物語が読み取りやすいものをナラティブ、実験的な作品をノンナラティブとして分けているだけで、僕は多くのノンナラティブ作品にも物語性があると思います。マックス・ハトラーの光学録音の発想に基づいた作品のように、20世紀の絶対映画の流れを汲んだ、もともと抽象的な音楽性を映画に取り入れたような作品を除けば、純粋なノンナラティブ作品は少ないのではないかと思います。
田中:そもそも長編アニメーションは劇映画、すなわちリニアな物語を前提とするものという先入観は、作り手/観客を問わず、未だ根強いように思われます。しかし、必ずしもリニアな物語は長編アニメーションの必要条件ではない。それは、山村さんの長編アニメーション『幾多の北』を観ても明らかです。
山村: 長年培われてきた映画の構造は、3部構成になっていたり、ターニングポイントがあったりと大体似たようなもので、アニメーション映画もそれに倣っているものが多いです。しかし、僕は長編アニメーションにおいて、構造の部分でこれまでのナラティブなパターンから抜け出す可能性があると考えています。
『Glass House』は9つの章に分かれていて、音楽でいう組曲のような形です。各章にタイトルがつけられ、それぞれが独立しているものと関連し合い、観客がその9つの章を繋ぎ合わせることで、1つの物語が見えてくるという構造です。一般的な映画の場合は、約15分の単位で1つの章がまとまり、それが3部構成で6パターンくらいの章が重なると長編映画になることがほとんどです。本作は40分なので長編と呼べるかどうかはわかりませんが、組曲的な9つの章から成り立つという点でその構造は非常に面白いと感じます。例えば、2フレーム単位で1つの絵があり、サブリミナルが永遠に続く2時間の映画なども面白いだろうと思います。
実は現在、1分の物語を90本繋げて90分の映画を作るという長編シナリオに取り組んでいます。この映画では、90本のショートフィルムは一見全く脈絡がないように感じられますが、それらを繋げることで何かが見えるかもしれない。このような構造における実験を試みたいと思っています。
田中:本作はAI生成イメージとハンドドローイングのハイブリッド作品です。その点も評価が分かれるポイントかと思います。山村さんは「ひろしまアニメーションシーズン(HAS)」のアーティスティックディレクターとして上映作品の選考も行なっていますが、そこでは生成AIを導入した作品も選ばれていましたね。生成AIに対する山村さんの考えを教えてください。
山村:この作品は恐らく、CGIが使われていたり、マイブリッジのソースが見える写真があったり、何かの映画をベースにしてAIで加工したショットも使われていたり、様々な技法をハイブリッドした作品だと思います。AIは異なる要素を混ぜて新たなイメージや動きを作り出すことに非常に長けており、自分自身の素材をそこに加えることで、オリジナリティを生み出すための道具になるのではないかと感じています。
HASの選考でも、明らかにAIを使っている作品を2本選びました。AIが使われている作品は現代のアニメーションにおける通過点として重要だと思い選考に入れましたが、審査員の方々はあまり評価していないように感じました。「こんなの2分で作れるよね」といった反応があり、手作業を尊重しすぎる傾向があるのを感じました。
ボリス・ラべの『Rhizome』という作品が文化庁メディア芸術祭に応募された際にも、私は審査員を務めていたのですが、その時の審査会では誰一人としてこの作品に触れなかったんです。恐らく、コンピュータで簡単に作られたものだろうという印象を持っていたのでしょう。しかし、全部手書きの素材で制作されていることを僕が説明すると評価が一変し、その作品が大賞を受賞することになりました。今後生成AIについて考えていくにあたっても、アニメーション業界にある「手作りがすごい」という価値観は払拭したいと個人的には思っています。
田中:どれだけ手を動かしたかだけでアニメーションを評価すべきでないとしたら、では作品を評価するにあたって、いったい何が問われるべきだと思われますか?
山村: これは本当に難しい問題ですが、アーティストがどのような視点で、どのような試みをしようとしているのか、そしてそこに新しい発見がある作品が面白いと思います。特に映画祭という場では、既存の技術を使ったウェルメイドな作品を高く評価するよりも、私はもう少し外れた次の可能性を感じさせる作品を見つけたいし、評価したい。自分の価値観では追いつけないような作品に面白さを感じます。
田中:本作における生成AIの使われ方を、どうご覧になりましたか?
山村:本作で一番重要なモチーフになっているガラスの質感、フィクションの中での光の屈折を表現するためにAIが活用されています。また、この映画自体が引用の嵐であり、素材自体も引用が多いため、それらをスムーズにつなげる道具としてAIは最適だったと思います。ボリス・ラべは、アニメーション的な考え方を持っています。アニメーションが中割りや異なるイメージを繋ぐ力を持つのと同様に、AIもメタモルフォーゼとして異なるイメージを滑らかに繋げていくことが得意です。世の中にあるAI映像もモーフィング、つまり形が変化していくものが多く、それはアニメーションの黎明期に似ていると感じています。
田中:生成AIを含め、アニメーションにおける手法というのは「個別言語」に近いように感じます。それぞれの手法には固有の文法(syntax)があり、その範囲内でアーティストは独自の文体を練り上げていく。そういうふうにアニメーションという芸術を図式化できるかもしれないと思う時があります。山村さんはどう思いますか?
山村: その質問に100%同意できない部分もありつつ、逆に田中さんの意図をお聞きしたいところです。syntaxという部分で言うと、アニメーションは絵を動かすために非常に多くの方法が試されてきました。アニメーション技法は、動きをビジュアル上で作るための創意工夫の中から生まれてきたものであり、僕にとってはそれぞれが一種の「方言」のようなものに感じられます。例えば、切り紙っぽい方言があったり、AIっぽい方言があったりというように。
田中:それは、山村さんのアニメーションへの向き合い方が異質だからな気もします。おそらくボリス・ラべもそうですね。どういうことかというと、山村さんもボリス・ラべも様々な手法に取り組まれていますが、一般的にアニメーションのアーティストというのは、ストップモーションやハンドドローイング、コラージュなど、それぞれにシグネチャーな手法を有しているように思います。したがって手法は単なる「方言」のレベルにとどまらず、むしろ、アーティストにとって決定的な枠組みなのではないかと。
山村: 確かに、僕もボリス・ラべも同じような考えを持っていると思いますが、作品ごとに目指すものがあって、それに適した手法や物語構造をゼロから考えがちなタイプなので、ピンとこないのかもしれませんね。アニメーションの場合は非常に職人的な要素が強く、切り紙なら切り紙を一生追求しなければ極めることはできませんし、ハンドドローイングも同様に一生追求していかないと一定のレベルには到達しないという考え方があります。そうなると、一人で多くの技法を開発していくのは難しく、さらに現代ではAIが登場したことで、プログラミングのスキルがなければオリジナルの作品にはたどり着けない。工学的な発想を持たなければ、現代におけるオリジナルな文体を作れない時代に差し掛かっているかなと思います。
田中:少しズレるかもしれませんが、ソフトウェアやツールも表現をある種、言語のように規定しているように感じる時があります。
山村:その点にはとても共感します。選考で何千本ものフィルムを見ていると、あるソフトウェアが流通すると、そのソフトウェアの癖に合わせた作品が山ほど作られるようになり、それを抜ける作品が少ない。観る側としては、「もう少し工夫できないかな」とげんなりしてしまうんですよね。もちろん良い面もあって、例えばDragonframeの普及で、以前は職人にしかできなかった立体作品が、かなり多くの人がスムーズに制作できるようになってストップモーションが活性化し、手描きに必要だった難しいブラシのテクニックがアプリケーションによって補強・補助されるようになりました。ただ、作品のテイストがどれも似通ってしまう部分があり、違う使い方ができないものかともどかしい感じがします。
田中:例えば、絵画における平面性や彫刻における量感を追求する純粋化のベクトルがありますよね? 同じように手法やソフトウェア、ツールの限界を追求することが、アニメーション芸術の純粋化と考えることができるかもしれません。
山村:アニメーション自体が持つ問題だと思うんですが、アートフォームとしてのアニメーションの考え方もあれば、映画の一ジャンルとして、技法としてのアニメーションという考え方もあります。当然多くのアニメーションはエンターテイメントや娯楽、実用のために作られることが多いですよね。アートフォームとしてアニメーションの純粋さを追求するようなアーティストは限られており、実際、多くのアニメーションは産業、または工芸としての追求の方向に傾いてしまいます。
田中さんがおっしゃっている、純粋な芸術性としてのアニメーションの話は理解できますし、僕自身もアニメーションの本質や、他のメディアにはないアニメーションの純粋な形を追求したいと感じています。その可能性がどこかの作家や技術によって見つかるかもしれません。マクラーレンがカメラを使わずにフィルムに絵を描いたように、アニメーションにおける内的なイメージをどう映像としてビジュアル化するか。その過程で新しい技法や発想が生まれ、それがアニメーションの純粋な形として成り立つ可能性もあるのではないかと思います。
田中:「アニメーション」という言葉の中にはジャンルと芸術形式という似て非なる意味が共存しているということですね。言い換えれば、アニメーションにはある種の不純性がつきまとっている。山村さんやボリス・ラべは、アニメーションの不純さを前提としたうえで、それでもなお、創意工夫しながらアニメーションの純粋性を探求しているアーティストと言えるかもしれないですね。
山村:大変光栄な言葉で、ありがたいと思います。
田中:ところで今思い出したのですが、山村さんはかつて「Animations」というコレクティブを運営していましたが、その「Animations」の座談会で、細部は違うかもしれないのですが、「本当の意味でのクリエーションをCGで行うためにはプログラミングからやらないといけない」という旨の発言をされていたと記憶しています(編集者注:当該座談会は以下。「ライアン・ラーキンと『ライアン』 Animations座談会(前編)」(2007)。当トークイベントの内容をより深く理解するための補助線として参照されたい。座談会からすでに15年以上経過しているため、各参加者の考え方も当時とは変化していると推察されるが、生成AIの急速な拡大を受け、「アニメーションの本質」が再び問い直されている現在、ここで行われているCGに関する議論は、アニメーションとデジタル技術の関係を再考するうえで有益な示唆を与えてくれる)。今日の議論に通じる論点だと思います。
山村:そうですね。今後はプログラミングができないと新しい創作に向かえない時代になったかなと思います。僕がCGに手を出しづらいのは、自分でプログラミングができれば思い通りのものを作れると思うのですが、既存のアプリケーションを使って作ったものには満足できない部分があるからです。最近、初めてVRの制作をした際にCGを使いましたが、その不自由さを強く実感しました。
田中:このトークのテーマは「手法から考える」でしたが、むしろ、「文法を考える」という方が山村さんのアニメーション観に近いかもしれませんね。
山村:順番としては、そういうことだと思います。僕の場合、構造やナラティブの方法、文法への興味があって、そこへの実験性を求めています。具体的なものが決まった後に、アニメーションの手法やスタイルを探るという流れです。アニメーション制作や絵本制作においても、テキストやストーリーごとに道具や手法を変えるという方法を取ってきました。別に意図的にやっているわけではなくて、自然にそうなってしまう部分もありますが、順番としては手法や技法が後からついてくる感じですね。
田中:些細な点で恐縮ですが、「意図的にやっていない」というのは、無意識ということなのか、それとも意図することそれ自体が身体化したような感覚なのか、どちらなのでしょうか?
山村:その中間的な感じですね。僕はインスピレーション型の人間で、いきなりアイディアを思いついて何かを作りたくなる。モチベーションが急に上がって、それがどんな方法でどううまくいくのかもわからないまま創作が始まる。それが意識化されているのか無意識化されているのかで言うと、無意識化の方が近いと思います。直感型で、熟考型ではないんです。最近、脳科学の本をよく読んでいるのですが、直感というのは本質を見抜く力があるんですね。何万種類ある植物の中から、昔は科学的な方法がなくても「この草が病気に効く」といったことを勘で見つけてきて、最近科学が発展してようやくその薬の意味がわかるというようなことがあります。創作の中でも、そういった本質をつかむ直感力が非常に重要だと思います。その後に少しずつ考え始めて実行して、意識化することで必要なものがわかってきます。
田中:先程も少し話題に出ましたが、山村さんは最近ではVRにも取り組まれていますね。新しい技術は山村さんにインスピレーションを与え続けてくれますか?
山村:VRの作品を作った際、アニメーションの「見えていない部分」が見えたんですね。VRはフレームがなくて、360度が映像になります。フレームは元々カメラから来ていて、世界を切り取るものですが、実際にはフレームの外にも世界が広がっています。イマジネーションの世界にはフレームがないわけで、VRの方がより純粋なアニメーションに近いかもしれませんね。
また、モンタージュも使いづらいですね。360度の世界が急に変わってしまうので、映画的なモンタージュで文法を語る映像表現が難しくなります。アニメーションが当たり前のようにカット割りをしているのは、やっぱり映画的な文法に従っているからなんですね。改めてそのことに気づいたりもしました。
以前からモンタージュは比較的避けていて、ワンシーン・ワンカットで流れるような作品は『サティの「パラード」』からです。そして、今回『とても短い』では非常に短いワンショットで描き続けるという、映画的なカメラから抜け出したアニメーションの可能性に、VR作品の制作を経験して初めて気づき、それを言語化できるようになったという感じです。
田中:アニメーション映画祭は今後、新しい技術といかに向き合っていくべきだと思われますか?
山村:アニメーションフェスティバルと名乗っている限り、アニメーションから外れる作品をどう考えるかは、やはり問題になると思うんですね。映画祭だったら何でもありという部分もありますが、カテゴリーが限られたフェスティバルだからこそ、アニメーションとは何かを常に考え、アニメーションの可能性を見つけていけるのだと思います。実際に、HASでは「これはアニメーションではないな」と思うような、完全に実写的なAIによる作品もありました。そのような作品をどう考えるのかを常に問題提起し続けることが映画祭の役割だと思います。そして、その答えは観客の中にあると思います。
新千歳空港国際アニメーション映画祭実行委員会では、2024年11月1日(金)〜5日(火)までの5日間にわたり「第11回 新千歳空港国際アニメーション映画祭」を開催しました。
11月3日(日・祝)の特別プログラムでは、乃木坂46一期生・高山一実の長編小説デビュー作を原作とした映画『トラペジウム』を上映。上映後は「メイキングオブ:トラペジウム」と題し、本作の制作背景についてのトークイベントを開催しました。
トークイベントの会場には「トラペジウム」の多くのファンが来場。たくさんの立ち見が出、その熱量に圧倒されるほど。本作の人気が伺えます。ゲストに、監督である北海道出身の篠原 正寛 氏、アニメーションプロデューサーの染野 翔 氏、プロデューサーの橋本 渉 氏を迎え、予定時間を超えての熱いトークイベントが行われました。
シナリオの制作にあたって
乃木坂46の1期生・高山一実さんが、雑誌『ダ・ヴィンチ』で2016年から執筆した長編小説『トラペジウム』。2018年発売の単行本は累計30万部の大ヒットを達成し話題になりました。この小説のアニメーション映画化をするにあたり、「原作をどう90分の映像にするか」を考えたという篠原監督。
群像劇なのか、東ゆうを主役にするのかについて、「原作を読んだ時の印象から、これは東ゆうの物語だというのが強くあった」と、言い切ります。主人公である東ゆうの解像度を上げていくことに注力していったという経緯について説明します。「東ゆうは独特な主人公」と言う橋本氏の言葉に、篠原監督はすかさず「僕は好きですよ!」と続けます。
アイドルになることを信じて行動し続ける純粋さが強烈なキャラクターとして、鑑賞者たちにさまざまな思いを引き起こしている主人公・東ゆう。「みんなそれぞれ色んな自分を使い分けていると思う」「一人の人間を追っていく上で、結果ゆうの色んな部分をたくさん見てもらっている」と、彼女のキャラクターの魅力や強さについて語りました。
キャラクターデザインと原作者・高山一実さんとのやりとりについて
本作のデザイン的なこだわりについて話が及ぶと、キャラクターのデザイン画等をスクリーンに映し出しながらのお話しに。中でもかなりこだわって取り組んだという衣装設定については、年頃の高校生らしい着回しのパターンも多数設定したと説明し、「物語としての味になっている」と染野さん。数秒しか出てこない衣装もあり、制作予算・工程とこだわりの葛藤があったことを吐露しました。
また、原作者の高山さんからのこだわりや指示について問われると、「特に色にこだわりがあった」と振り返り、髪や肌の色など一緒に画面を見ながら調整したり、高山さんがイメージする彼女たちが着る洋服の写真など参考にしてデザインを起こした経緯について説明しました。
一つの見せ場である、アイドルグループ「東西南北(仮)」の衣装設定については、原作の高山さんとキャラクターデザインを担当するりおさんがライブドローイングで作り上げていったもの。「高山さんとりおさんの二人が、かわいいかわいいって言いながら作業し始めたらもう何も言えなかった…(笑)」と橋本さん。「ライブ衣装なんかは本職である高山さんの意見が一番参考になりますから」と染野さんが語ります。
季節感の違い、衣装、光のあたり方などデザインのこだわり
さらに季節感、光の入り方へのこだわりの話にも。アニメーションを制作する際には「順光色付け」という光の使い方を多用することが多い中、今回は「光が入ってくる場所を相当意識した」と篠原監督が光の使い方について、季節ごとの色合いや基準を細かく設定していったと説明。物語の中で度々登場する舞台である丘のシーンなど、背景パターンは10以上あると言います。
また、「背景を担う美術監督の真骨頂だった」という本屋のシーン、書籍を描くワンカットへの並々ならぬエネルギーをかけた話なども、そのこだわりや熱量に来場者から笑い声も起こります。篠原監督は本屋の背景が上がってきたとき「発注者としてテンションが上がる瞬間だった」と満面の笑顔で付け加えました。
物語の最後を締めることになる、ゆうの“計画の協力者”である工藤真司の写真展のシーンについても言及。実際に写真家として活躍されているKAGAYA氏の協力のもと星空写真をお借りした際、それぞれの写真作品をアニメーションで使用する際のポイントが書かれた解説と一緒に提供してもらったとのこと。
シーンの中でも、館山の写真から世界を舞台にした写真へと、真司が写真を撮り続けながら世界を広げていったように構成されており、染野さんは、写真の存在感がありつつ背景として馴染むように、工夫しながら制作したことを語りました。
事前に募集した質問は多数に及び、予定時間をオーバーしながらもファンからの篠原監督の質問に丁寧に答えていただき、貴重な機会に。メモをとりながら参加する方も多く、最後の最後まで熱い時間となりました。
篠原監督は「初めて監督をさせていただき、こうしてたくさんの方が見てくださっているというのは本当にありがたい。幸せな経験をさせてもらっている」と感謝を述べ、大きな拍手でトークイベントを終えました。
新千歳空港国際アニメーション映画祭実行委員会は、2024年11月1日(金)〜5日(火)までの5日間に渡り「第11回 新千歳空港国際アニメーション映画祭」を開催しています。
11月3日(日)のプログラムでは、『映画 すみっコぐらし』や『アグレッシブ烈子』など人気作のアニメ制作を手掛ける株式会社ファンワークスから、代表取締役社長の高山晃氏と監督のラレコ氏を迎えたトークイベントが行われました。
Netflixで大ヒット!『アグレッシブ烈子』の制作秘話と予想外の反響
トークイベントの前半では、高山氏が「弊社では『KAWAII ANIME(カワイイ アニメ)』をコンセプトに、キャラクター性の強いポップでキュートな作品をたくさん作ってきました」と語り、これまでの歩みを振り返りながら、創業時から共にしてきたラレコ監督の作品の数々を紹介し、各作品の制作秘話などについて話しました。
代表作の一つ『アグレッシブ烈子』は、サンリオのキャラクターをアニメ化した人気作品。主人公であるレッサーパンダのOL・烈子が、クセのある上司や同僚との日常に募る怒りをデスメタルの熱唱で発散するというユニークなストーリーです。当初はTBSテレビの「王様のブランチ」で1分アニメとして放送されていましたが、2年間の放送を経て、現在は1話15分のシリーズとしてNetflixで全世界に配信されています。
ラレコ監督はNetflixシリーズ化の話を受けた際、「“ドメスティックなOLあるある”が海外でどう理解されるかわからず、表現のさじ加減に迷い、途方に暮れました」と当時の心境を振り返ります。しかし、Netflix側から「気にせず好きにやってほしい」との言葉をもらい、それが表現の後押しとなったと語りました。
また、物語の中では、烈子が上司にお茶を汲む場面を盛り込むなど、80年代を意識した職場環境が描かれており、「日本よりも女性の権利が進んでいると思っていた海外からの共感の声が多く、意外でした」と、海外視聴者からの予想外の反応に対する思いを述べました。この作品は海外の大手メディアにも多く取り上げられ、高山氏は「“OLあるある”として始まったものが、#MeToo運動の影響もあり、現代女性を象徴するキャラクターとして海外で評価されたことに驚きました」と話しました。
「絵コンテは使わない」「デスボイスを自宅で収録」ラレコ監督が明かすアニメ制作の舞台裏
トークイベントの後半では、映像ユニット・TOCHKA(トーチカ)によるインタビューや観客から寄せられた質問にも答えました
制作過程に関するインタビューでは、一般的なアニメ制作が絵コンテを使用する中、ラレコ監督は絵コンテを作らず、頭の中のイメージをフラッシュ上で動くコンテとして形にし、そこに音楽や歌を加える独自の手法を明かしました。NHK Eテレで放送中の『チキップダンサーズ』については、監督自らが全キャラクターの声当てを渾身の演技で行い、ビデオコンテの段階でセリフのタイミングまでしっかり詰めているとのこと。イベントでは、この監督の声入りビデオコンテが特別に披露され、会場を盛り上げました。
また、ラレコ監督は本編でも声の出演を一部担当。その一つである『やわらか戦車』では高い声質が特徴で、TOCHKAから「ボイスチェンジャーを使っているのか」と質問されると、「録音時にゆっくり喋り、再生を1.3倍速にすることで自然な高い声を実現している」と制作の工夫を明かしました。
さらに、『アグレッシブ烈子』では、主人公の烈子が怒りを表現するデスボイスで歌うシーンも監督自身が担当しているとのことです。その収録はスタジオではなく自宅で行っており、「自宅には防音室がないので、近所の人には聞こえていると思う」と笑いを交えながら語りました。
観客からは、専用のチャットを通してリアルタイムで質問を募集。「使っている制作ツールは何ですか」「キャラクターの成長は考えないのでしょうか」「ターゲットや視聴者層はどのように設定していますか」「カラオケやアニメにメタル音楽がもっと取り入れられれば良いと思いますか」など、多種多様な質問が寄せられました。
最後に、TOCHKAから今後の展望について聞かれた高山氏は、「海外で『KAWAII ANIME』というキーワードでプレゼンを行うと非常に反応が良いです。『カワイイ』という言葉が世界に浸透しているのは、さまざまな企業によって作られてきたカルチャーだと実感しています。世界のエンターテイメントが変革の時を迎えている中、ファンワークスはあまり大きい会社ではありませんが、小回りが利くからこそ新しいことや面白いことにどんどん挑戦していけたらいいなと思っています」と締めくくりました。
ゲスト
高山 晃
株式会社ファンワークス 代表取締役社長(ファウンダー) 2005年、ファンワークス創業。「やわらか戦車」、「アグレッシブ烈子」、「映画すみっコぐらし」、「クリプトニンジャ咲耶」、「とむとじぇりーごっこ」、「チキップダンサーズ」、「アニメ ざんねんないきもの事典」など様々なKAWAII ANIMEの企画、プロデュースに関わる。
ラレコ
WEB アニメ初の大ヒット作品となった「やわらか戦車」をきっかけに、「ちーすい丸」(NTV)や「ガッ活!」、「目玉焼きの黄身、いつつぶす?」、「英国一家、日本を食べる」、現在絶賛オンエア中の「チキップダンサーズ」(いずれもNHK)などのTVアニメシリーズの監督を手がける。2018年にNetflixシリーズ「アグレッシブ烈子」の全世界配信を開始し、ワールドワイドな話題作となり全5シリーズまで展開。
2024年11月1日(金)~5日(火)までの5日間に渡り開催している「第11回 新千歳空港国際アニメーション映画祭」では、新千歳空港ターミナルビルを中心に、世界中の最新アニメーション作品を上映する他、新千歳空港のさまざまな会場にて、体験展示やトークプログラム等を展開しています。
11月2日(土)、映画祭の特別プログラムとして、スタジオジブリの1993年制作の長編アニメーション「海がきこえる」が英語字幕付きで上映。原作者は北海道岩見沢出身の氷室冴子さんで、札幌の北海道立文学館でも彼女の特別展が同時期に開催されており、北海道との特別なつながりを持つ本作品が上映されたことに大きな関心が集まりました。また、東京・Bunkamura ル・シネマでのロングラン上映も続いており、今なお多くの観客に愛されています。
本プログラムでは「海がきこえる」上映後に監督の望月 智充 氏と作画監督の近藤 勝也 氏を迎え、トークを開催しました。トークの聞き手は本映画祭選考委員である田中 大裕です。
原作者 氷室冴子さんとの思い出と、「海がきこえる」制作の裏側
まず最初にお二人には東京でのロングラン上映や話題になっていることについて「そもそもジブリ作品の中でも見る機会がなかったからでは」と話す望月監督に「露出してないからだよって言われて、確かにそうだなって」と近藤さんも便乗し、その受け止めは大変冷静なものでしたが、「東京だけでなくこうして北海道でも上映してもらえることは素直に嬉しいです」と答えました。
現在、北海道立文学館で開催中の特別展「氷室冴子の世界 ふくれっつらのヒロインたち」に足を運ばれたお二人。「元々僕が氷室冴子さんが好きだったこともあり、非常に感慨深かった。若くして亡くなられたことも含め、これまでの小説全て展示してあるというそれだけで自分の人生とも重ねていろいろなことを思いました」と語る望月監督に続き、展示の中に氷室さんの歴史を感じた近藤さんも「海がきこえる」に関われたことを「一期一会のような貴重な出会い」と感じたと語りました。
当時の制作体制について、「自分と近藤さんが制作の中心だった」と言う望月監督に対し、近藤さんは「僕は点をつくっていったけど点を線にしたのは望月さん。ぐっとくるのは望月さんの演出の部分だった。気持ちよく作画できたのは望月さんのおかげ。こういうこと絶対言わないんですけど」と30年の年月を超えてのお二人のやりとりも。
また氷室作品の映像化にあたっては「氷室さんの小説を最初にアニメ化できることの喜び」と「ジブリでは宮崎さん・高畑さん以外がつくることはなかった」と、とにかく完成させることが目標であったと当時の状況を思い出しながら、望月監督が激務で倒れたこと、近藤さんはご飯を食べる時間も惜しみ「(制作期間の半年間は)1.5倍速で動いてたと思う」など当時のエピソードをお二人で振り返り語りました。
魔法が出るわけでも、スポーツができるわけでも、猫がしゃべるでも、空から女の子が落ちてくるでもない(笑)
さらに制作の裏話は続きます。「普段はアニメには向いていないとかは思わないんだけど」と近藤さん。「海がきこえる」を原作にアニメをつくるという話を聞き「ちゃんと原作は読んだのか?」と質問したと言います。
「魔法が出るわけでも、スポーツができるわけでも、猫がしゃべるでもない…」
「空から女の子が落ちてくるでもない(笑)」と続けて、望月監督。
それでも「他の人にやらせるなら僕がやる」と近藤さんが作画を担当することに。
しかし「原作に描かれていることを汲み取っていく」と、どんどん面白く、「引っ掛かりが生まれていった」と言います。
現実の世界を描いていく上での、アニメーションにおけるリアルさ、説得力がいかに生まれていくことについて、近藤さんは「客観的に説明できない」と言いつつ、イメージ通りにできるのであればなんでもやったと、スケジュールのない中で、実際の動きを観察したり試したりしながら作画していったプロセスと「共感して、没入してみてもらうこと、それだけを考えて描いていった」と振り返ります。
また望月監督は、「現実に起こり得るないことが出てこない」世界のなかで、「人間の芝居がちゃんとできていること、それは実写であれば人間の芝居そのものなのだけど、そのまま紙に描いてリアルになるのではない」と実写とアニメーションのものづくりの違いについて言及し「リアルに見えることはものすごい”つくりごと”で、創作的なこと」と、アニメーションをつくること、ものづくりの本質的な面白さについて触れさせてくれたように思います。
ビジュアルブックも発売「現存している全てのものが載っている」
30年ぶりに作品をみての感想・手応えを改めて問われ、近藤さんは「いいところもあれば、もっとこうすればよかったと思うところもあるが感慨深く見ました。素直に面白かったし飽きずに見られる作品だなと思った」と柔らかい表情で応えます。
「(一番手応えを感じたのは)作品にジブリのオープニング、トトロのマークがくっついてた時ですね。非宮崎・高畑作品がちゃんとできた、完成できたこと」と語る望月監督に、この企画が当時考えられないものであったか、制作スタッフが感じていたプレッシャーの重さを少なからず感じさせました。
今回、30年の時を超えて、ビジュアルブック「海がきこえる THE VISUAL COLLECTION」が発売となりました。
https://www.ghibli-museum-shop.jp/i/9784867910276
“現在集め得る限りの膨大なビジュアルを惜しみなく投入されています” とされるこのビジュアルブック。望月監督は「カタログ的なものが好きで(笑)。今回は現存している全てのものが載っています。近藤さんが描いてくれた色紙なんかも。ぜひ手に取っていただきたい」とファンに向けてメッセージを送りました。
最後に、来場してくれた人へのメッセージとして、近藤さんは「皆さんと一緒にまた作品を観れたことをとても嬉しく思います。ありがとうございました」と感謝を述べました。
また望月監督は、CG技術の進化で変わりゆく映像表現に触れつつ「それに比べると100%手で描くということはそれ以上進化しないもの、古くならないなと考えたりした」と手描きの価値を再認識したことに触れ「映画祭で上映されるのは初めてのこと。本当に驚いています。一人でも多くの人に見てもらえるのは、冥利に尽きます。ありがとうございました」と締めくくりました。
観客と一緒に作品を振り返る貴重な時間となり、手描きアニメーションが持つ普遍的な魅力を再確認できる時間でした。
新千歳空港国際アニメーション映画祭実行委員会は、2024年11月1日(金)〜5日(火)までの5日間にわたり「第11回 新千歳空港国際アニメーション映画祭」を開催しています。
11月4日(月) シアター1では、ミュージックアニメーションコンペティションの審査及びベストミュージックアニメーション賞の授賞式を行いました。コンペティションに入選した11作品の上映と、インターナショナルコンペティション部門入選作家であるメディアアーティストのマックス・ハトラー氏による音と映像の単独ライブも実施しました。
本年のベスト・ミュージック・アニメーション賞は、ジョシュ・シャフナー氏の「Air Lock」
本映画祭の特徴の1つである、MV(ミュージックビデオ)をはじめとした、音と動きとのシンクロナイゼーション(同期)を楽しむ「ミュージックアニメーションコンペティション」では、11作品が入選。コンペティション審査員に、アニメーション監督の酒井 和男氏(代表作:『ガールズバンドクライ』シリーズディレクター、『ラブライブ!サンシャイン!!』監督など)、フォーリーアーティストでサウンドデザイナーである滝野 ますみ氏を迎え、ベストミュージックアニメーション賞を決定しました。
今年のベストミュージックアニメーション賞は、短編部門の国際審査員も務めるジョシュ・シャフナー氏「Air Lock」が受賞しました。本作はPhotayのアルバム「Windswept」の収録曲。風が主要なテーマのこの作品は、自然の力と、それが人間の精神に及ぼす影響を、青を使い即興で表現しています。
受賞したジョシュ・シャフナー氏には、賞金10万円と授賞メダルが贈られます。
目に見えない流れ、空気を可視化するような、楽しむような感覚
受賞理由として審査員の酒井氏は「目に見えない流れ、空気を可視化するような、楽しむような感覚」があるとし、その流れや空気が青という色彩を使用することにより「過ぎ去り変化していくような少しアンニュイな寂しさを感じた。」と評しました。
ジョシュ氏は、受賞について「大変光栄です。素晴らしい作品がたくさんあった中での受賞でとても嬉しい」とコメントしました。
抽象化されているものが多かった、自由に楽しんで作られていた
総評として、酒井氏は、ミュージックビデオも自身と同じ商業アニメーションの世界であるとして、その際に「作品と自分との距離が大事」と言い、「どこまで自分を近づけるか、失くせるのか」が問われるものだろうと、制作する上での全てのアーティストが直面する苦悩に触れながら、その中でも「さまざまなアニメーションを見てやっぱり面白い」と再認識したと入選作品とアーティストを労いました。
また、滝野氏は、「音楽という自由な存在に対して、映像も自由に楽しんで作られていた」と感じたこと、またストーリーから解放され、ビートやリズムを感じる喜び、心象風景など「長い抽象画を見ているような不思議な気分」「新しい発見もたくさんあった。ゴージャスな体験だった」と授賞式を締めくくりました。
Special Live – featuring: Max Hattler
ベストミュージックアニメーション賞審査の合間で行われた特別イベント、インターナショナルコンペティション部門入選作家であるメディアアーティストのマックス・ハトラー氏による音と映像の単独ライブを開催しました。「オプティカルサウンド(光学音響)を使用し、映像から音楽が即興で表現されていくもの」とのハトラー氏からの解説の後、スペシャルライブが行われました。連続して明滅するビジュアルにシンクロするノイジーな音を全身で感じる30分間となりました。
満場一致、トメック・ポパクル氏が3度目の短編グランプリ受賞
新千歳空港国際アニメーション映画祭実行委員会では、2024年11月1日(土)〜5日(火)までの5日間にわたり新千歳空港シアターを中心に「第11回 新千歳空港国際アニメーション映画祭」を開催しました。
今年度はコンペティション部門をはじめ、招待部門に豪華ゲストを招いた特別上映・トークプログラム、北海道内の人気音楽フェスとコラボしたライブイベントなど、短編66作品、長編6作品を上映、約30の上映・トークプログラム、8つの体験展示プログラムを新千歳空港ターミナルビルで展開しました。
最終日である11月5日(火)14:30より、グランプリを含むコンペティション受賞14作品の発表と授賞式を執り行いました。
コンペティション短編部門
アニメーションの可能性を最大限に発揮し、総合的に最も優れた作品に贈られるコンペティション短編部門グランプリは、トメック・ポパクル氏の『Zima』が受賞しました。2014年、2019年に続き3度目のグランプリ受賞となります。
国際審査員を務めた尾石 達也氏は、作品について「僕は今すごいものを見ているという確信、興奮。文句のつけようがない、審査員満場一致の大傑作」と評しました。
ポパクル氏は、共同制作者であるオゼキカスミ氏とステージに立てたことを喜び、「この映画祭はホームに戻ってきた気持ちがある。素晴らしい賞をいただけて光栄。 」と受賞の喜びを述べました。
また、日本のアニメーション作家や日本で制作された作品に贈られる日本グランプリには、折笠 良 氏の『みじめな奇蹟』が受賞。審査委員のジョシュ・シャフナー 氏は、「紙に描かれたアニメーションの限界を超えて表現されている」と評しました。
折笠 氏は「2018年秋から4年半かけて制作してきたもの。日本・フランス・カナダで一緒に制作したスタッフにも感謝します」と受賞について述べました。
コンペティション長編部門
い長編アニメーションであり、その美しさと生成AIを活用した作品として注目された本作、
審査員のガオ・ユアン氏は「非物語表現で飽きることなく、いくつかのシーンは非常に衝撃的でまるで夢の中にいるようだった」「傑作だと思う」と評しました。
受賞を受けてボリス氏から「この作品は私にとって非常に特別なプロジェクトであり、実験的なものでした」と振り返り、受賞は「大変に重要なこと。ありがとうございました」とフランスから喜びのビデオメッセージが寄せられました。
またこの度長編部門には審査員特別賞として『ルックバック』が選出。受賞について監督の押山清高氏は、「国内・海外で上映してくれる館も増えている、とても幸運な状況」と世界的に評価してくれていることへの喜びと感謝を述べました。
アワードページにて一覧をご覧いただけます
https://airport-anifes.jp/competition/awards/
小出正志実行委員長「実り豊かな5日間だった」
国際審査員を代表して、パヴェル・ホラーチェク氏から今年の総評として「本映画祭の評判は聞いていた。セレクションも素晴らしかったゆえに、賞の選考は難しかった。素晴らしいゲスト、スタッフ、そしてフィルムに出会えたことに感謝している」と述べました。
また、本映画祭小出正志実行委員長から、「映画祭の次の10年の始まりにふさわしい、実り豊かな5日間だった」と振り返り、来年の再会を約束して閉会を宣言しました。
2024年11月1日(金)~5日(火)までの5日間に渡り開催している「第11回 新千歳空港国際アニメーション映画祭」では、新千歳空港ターミナルビルを中心に、世界中の最新アニメーション作品を上映する他、新千歳空港のさまざまな会場にて、体験展示やトークプログラム等を展開しています。
2011年から札幌市内でインディペンデントの音楽イベントを開催する「OTO TO TABI」と、新千歳空港国際アニメーション映画祭がコラボレーションした「OTO TO TABI × NEW CHITOSE 2024 エアポート音楽会」が11月2日(土)、新千歳空港シアター会場にて開催されました。音楽会では、DTMユニット・パソコン音楽クラブと、ライブコーディングVJ・Renard氏によるセッションが行われ、音楽と映像が織りなす世界が観客を魅了しました。
ライブコーディングで生み出す、音楽と映像のシンクロ
セッションが始まる前に、Renard氏は自身が行うライブコーディングVJのパフォーマンスについて、「まっさらな状態からリアルタイムでVJシステムそのものをコーディングします。キーボードでプログラムを書き、パラメーターを変えることで、VJシステムを作りかけの状態から動かしていきます」と説明。
また、ライブコーディングVJとの共演が今回初となるパソコン音楽クラブの2人は、「昨日のリハーサルで、Renardさんが楽器を演奏するようにキーボードを触り、音楽に合わせてどんどん映像を変えていくのを見て、本当に一緒にセッションしている感覚になって。今日がすごく楽しみです(西山真登氏)」「映画館では映像がめちゃくちゃ鮮明に映し出される。クラブなどでは滅多に実現できないことなので、とても惹き込まれると思います(柴田碧氏)」と、観客の期待を盛り上げました。
セッションが始まると、Renard氏がキーボードを打ち込むたびにコードがスクリーンに映し出され、同時にその場で生成された映像が重なります。パソコン音楽クラブが奏でるエレクトロニック・ミュージックに合わせて、オーロラのような幻想的な光やアルファベットなど様々なモチーフが現れ、曲調やテンポの変化にぴったりシンクロしながら動き続ける。まるで音楽が視覚化されているかのような不思議な世界観が生み出されていました。
映画館の大スクリーンと音響が生み出す迫力に没入感が高まる中、観客は音楽に合わせて体を揺らしたり、時には映像に見入ったりしながら、その世界観に深く引き込まれているようでした。
新千歳空港国際アニメーション映画祭実行委員会は、2024年11月1日(金)〜5日(火)までの5日間に渡り「第11回 新千歳空港国際アニメーション映画祭」を開催しています。
11月3日(日)はシアター会場にて「キッズ賞」の発表が行われ、エリック・リー氏の『縁は風のように吹く』が受賞しました。
キッズ賞は、本映画祭初年度の2014年から取り組んでいるプログラムの1つで、世界の短編アニメーション7作品から「こども審査員」が審査・選考するものです。今年のこども審査員は北海道在住の小学4〜6年生5名で構成され、事前にご家庭で作品を視聴した後、オンラインによる意見交換により受賞作品を決定しています。
キッズ賞は、エリック・リー氏の『縁は風のように吹く』
本年のキッズ賞は、香港の公営団地の取り壊しを背景に、友人との別れや出会いを経験する少女の心情を描いたエリック・リー氏の『縁は風のように吹く』が受賞しました。来場していたエリック氏は、「とても驚きました。この作品は幅広い世代をターゲットに制作したので、子どもたちに僕が作ったメッセージが届いたことがとても嬉しく、新鮮な気持ちです。本当にありがとうございました」と、受賞の喜びを語りました。
こども審査委員長を務めた田村百萌(もも)さんは、受賞作品について「冒頭で主人公が見た夢が、色々な出会いや別れを経て、最終的に現実となるストーリーが印象的でした。また、絵がとても綺麗で、特に鳥が飛んでいる姿が好きでした。 主人公の目線や鳥の目線など様々な視点で描かれていて、自分もその世界にいるような気持ちで楽しめました。そんなところを見てもらいたいので、この作品を選びました」と評しました。
この他、こども審査員からの評価が高い作品として、シャダブ・シャイエガン氏の『おばあちゃんの梨』にスペシャルメンションが贈られました。シャダブ氏は「貴重な表彰をいただいて、とても嬉しいです」と、思いを述べていました。
「縁は風のように吹く」作品情報
ストーリー
香港の公営団地で育った小学生の女の子、ふうさんは、古い団地が取り壊されて再建されようとしていて、近所の人や友達が徐々に離れていくのを目にしました。物事はずっと前から予測されていたことだったが、それでも彼女は別れを諦めることができなかった。消え去ろうとしているこの場所で、ふうは新しい友達に出会う。
監督プロフィール
エリック・リーが2012年に設立したMorph Workshopは、インデペンデント短編映画制作に特化したアニメーションスタジオである。2012年以降、6本の短編アニメーションを制作し、その全てが世界各国の国際映画祭に選定されている。
2024年11月1日(金)~5日(火)までの5日間に渡り開催している「第11回 新千歳空港国際アニメーション映画祭」では、新千歳空港ターミナルビルを中心に、世界中の最新アニメーション作品を上映する他、新千歳空港のさまざまな会場にて、体験展示やトークプログラム等を展開しています。
11月2日(土)〜4日(月・祝)までの3日間は、新千歳空港国際線2階のポルトムホールを会場にファミリー向け無料上映会を開催。入退場・座席自由の広々とした上映会場でリラックスして鑑賞することができます。昨年好評だったことから会期を3日間に拡大しました。
「すみっコぐらし」映画シリーズやファミリー向けアニメーションをセレクト。映画館デビューにも。
ポルトムホールでは、客席はほんのり暗い程度の照明にし、観覧席とスクリーンの間には広々としたスペースを設け、親子連れはラグの上で足を伸ばしたり寝転んだりしながらリラックスした空間となっています。映画館がはじめてのお子さま連れでも不安なく鑑賞してもらうことが出来ます。
今年は、「映画すみっコぐらし」シリーズ上映会、TVアニメ「ちびゴジラの逆襲」イッキ見上映会、そして日本アニメーション協会(JAA)に所属するテレビやTVなどで活躍中のアニメーション作家・監督が制作した短編アニメーションをセレクトした「わくわくいっぱい!ファミリーアニメーション」を上映。シアターデビューにおすすめのプログラムをセレクトしました。
TVアニメ「ちびゴジラの逆襲」イッキ見上映会には、ちびゴジラがやってきた!ちびゴジラグリーティング会を開催。
会場には、テレビ東京系列「おはスタ」内にて放送中のTVアニメ『ちびゴジラの逆襲』に登場するキャラクター・ちびゴジラが登場しグリーティング会を実施しました。
『ちびゴジラの逆襲』のイッキ見上映会の後に行われたグリーティング会には、家族連れを中心に約25名が参加。司会者の合図で来場者が「ちびゴジラー!」と声を揃えると、スタッフに連れられ、ちびゴジラが登場。てくてく歩いたり、ぴょんぴょん跳ねたりする愛くるしい仕草で会場を盛り上げました。参加者にはちびゴジラの紙帽子とステッカーがプレゼントされ、子供たちはその帽子をかぶり、笑顔で握手や記念撮影をしている様子が見られました。
1月4日(月・祝)まで、TVアニメ『ちびゴジラの逆襲』のイッキ見上映会(各日10:00~/15:00~)とちびゴジラグリーティング会(各日11:05~/16:05~)を実施します。
期間中は入場無料で、自由に出入りが可能です。ちびゴジラに会いに、ぜひ会場へお越しください。
TVアニメ『ちびゴジラの逆襲』ストーリー
全世界待望のゴジラシリーズ最新作は・・・まさかのショートTVアニメ!!
豪華すぎる声優陣で、クセが強すぎるちび怪獣たちの、ゆるすぎる日常を描く。
果たしてちびゴジラは父であるゴジラのような立派な大怪獣になれるのか!?
毎話3分くらいで送るノンストップモンスターエンターテインメント!
新千歳空港国際アニメーション映画祭実行委員会は、11月1日(金)~5日(火)の5日間に渡り新千歳空港シアターを中心に「第11回 新千歳空港国際アニメーション映画祭」を開催しています。
11月2日(土)に行われた、オリジナル作品の支援を募るプレゼンテーション企画「NEW CHITOSE AIRPORT PITCH 2024」では、映像作家・橋本麦氏のミュージック・ビデオ『Light』がアワードを受賞しました。
「NEW CHITOSE AIRPORT PITCH 2024」について
NEW CHITOSE AIRPORT PITCHは、日本で活動するアニメーション作家やプロデューサーが現在制作中またはこれから制作する作品の支援を募るためのピッチ(公開プレゼンテーション)を行うプログラムです。国内有数のゲスト数を誇る映画祭独自の場を活かして制作関係者同士の国際交流を促進するほか、プロフェッショナルであるゲストコメンテーターとの意見交換を通して新たなネットワークとつながる機会の創出を目的とし、今年で4回目を迎えます。
映画祭事務局からは、最大1プロジェクトに製作支援金30万円のアワードが授与されます。今年度は4つのプロジェクトについてのピッチが行われました。
アワード受賞は、橋本麦氏のミュージック・ビデオ『Light』
本年の「NEW CHITOSE AIRPORT PITCH AWARD」は、橋本 麦 氏のミュージック・ビデオ『Light』が受賞しました。
本作は、2020年に不定形バンド『FEM』名義でリリースされた同名の楽曲のために構想されたミュージック・ビデオで、橋本氏の故郷である北海道の風景と3DCGを融合させた短編映像作品です。
橋本氏は、自身の作品を「北海道出身の僕なりに再解釈したふるさとビデオ」と位置付け、さらに「ミュージック・ビデオであり、路上観察学的ビデオエッセイであり、パラメトリック・アニメーションでもある」と説明しました。
映像制作にあたり、ツールの開発から手掛けたことについて、「ミュージック・ビデオという単体のアニメーション作品ではありますが、個人作家による3Dアニメーション表現を拡張するための研究開発プロジェクトとしても考えてもらえたらなと思います。開発したツールやプラグインは、作品の公開と同時にオープンにしていきたいと思います」と、作品を通じた技術の共有への意向を示しました。
また、ゲストコメンテーターがプロジェクトの完成時期について尋ねると、「このピッチを機に公開制作の気持ちで自分を追い込み、来年の映画祭に応募できるよう進めたい」と、意欲を表明しました。
アワードを発表した本映画祭チーフディレクターの小野朋子は、「今日登壇してくださった4つのプロジェクトはいずれも本当に素晴らしくて、すごく切実。私も今日アワードを決めさせていただくにあたってものすごく緊張しましたし、責任も大きいなと思いました。作家さんたちの思いを受け止め、頑張ってこの場をいいものにしていきたいと気持ちを新たにしました」と、プロジェクトへの高い評価と自身の意気込みを語りました。
また、橋本氏の作品について「描き方によってはすごく感傷的になりがちなのに、全然感傷的ではない。また、他に類を見たことがないビジュアルの奇妙さで、作家自身が使うテクノロジーによっても、私が生まれたところを面白くしてくれてありがとうという気持ちになります」と評し、その独自性と作品に対する感謝の気持ちを伝えました。
受賞した橋本氏は、「いただいた製作支援金は僕自身が使うというよりは、ミュージック・ビデオという表現を支えてくださっているミュージシャンやミュージックレーベルにお渡ししたいです。そういった音楽シーンに予算が渡ることで、翻って映像文化が効力を持っていったらいいなと思ってます」と、支援金の用途に対する思いを語りました。