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2024年11月1日(金)~5日(火)までの5日間に渡り開催している「第11回 新千歳空港国際アニメーション映画祭」では、新千歳空港ターミナルビルを中心に、世界中の最新アニメーション作品を上映する他、新千歳空港のさまざまな会場にて、体験展示やトークプログラム等を展開しています。
11月2日(土)、映画祭の特別プログラムとして、スタジオジブリの1993年制作の長編アニメーション「海がきこえる」が英語字幕付きで上映。原作者は北海道岩見沢出身の氷室冴子さんで、札幌の北海道立文学館でも彼女の特別展が同時期に開催されており、北海道との特別なつながりを持つ本作品が上映されたことに大きな関心が集まりました。また、東京・Bunkamura ル・シネマでのロングラン上映も続いており、今なお多くの観客に愛されています。
本プログラムでは「海がきこえる」上映後に監督の望月 智充 氏と作画監督の近藤 勝也 氏を迎え、トークを開催しました。トークの聞き手は本映画祭選考委員である田中 大裕です。
原作者 氷室冴子さんとの思い出と、「海がきこえる」制作の裏側
まず最初にお二人には東京でのロングラン上映や話題になっていることについて「そもそもジブリ作品の中でも見る機会がなかったからでは」と話す望月監督に「露出してないからだよって言われて、確かにそうだなって」と近藤さんも便乗し、その受け止めは大変冷静なものでしたが、「東京だけでなくこうして北海道でも上映してもらえることは素直に嬉しいです」と答えました。
現在、北海道立文学館で開催中の特別展「氷室冴子の世界 ふくれっつらのヒロインたち」に足を運ばれたお二人。「元々僕が氷室冴子さんが好きだったこともあり、非常に感慨深かった。若くして亡くなられたことも含め、これまでの小説全て展示してあるというそれだけで自分の人生とも重ねていろいろなことを思いました」と語る望月監督に続き、展示の中に氷室さんの歴史を感じた近藤さんも「海がきこえる」に関われたことを「一期一会のような貴重な出会い」と感じたと語りました。
当時の制作体制について、「自分と近藤さんが制作の中心だった」と言う望月監督に対し、近藤さんは「僕は点をつくっていったけど点を線にしたのは望月さん。ぐっとくるのは望月さんの演出の部分だった。気持ちよく作画できたのは望月さんのおかげ。こういうこと絶対言わないんですけど」と30年の年月を超えてのお二人のやりとりも。
また氷室作品の映像化にあたっては「氷室さんの小説を最初にアニメ化できることの喜び」と「ジブリでは宮崎さん・高畑さん以外がつくることはなかった」と、とにかく完成させることが目標であったと当時の状況を思い出しながら、望月監督が激務で倒れたこと、近藤さんはご飯を食べる時間も惜しみ「(制作期間の半年間は)1.5倍速で動いてたと思う」など当時のエピソードをお二人で振り返り語りました。
魔法が出るわけでも、スポーツができるわけでも、猫がしゃべるでも、空から女の子が落ちてくるでもない(笑)
さらに制作の裏話は続きます。「普段はアニメには向いていないとかは思わないんだけど」と近藤さん。「海がきこえる」を原作にアニメをつくるという話を聞き「ちゃんと原作は読んだのか?」と質問したと言います。
「魔法が出るわけでも、スポーツができるわけでも、猫がしゃべるでもない…」
「空から女の子が落ちてくるでもない(笑)」と続けて、望月監督。
それでも「他の人にやらせるなら僕がやる」と近藤さんが作画を担当することに。
しかし「原作に描かれていることを汲み取っていく」と、どんどん面白く、「引っ掛かりが生まれていった」と言います。
現実の世界を描いていく上での、アニメーションにおけるリアルさ、説得力がいかに生まれていくことについて、近藤さんは「客観的に説明できない」と言いつつ、イメージ通りにできるのであればなんでもやったと、スケジュールのない中で、実際の動きを観察したり試したりしながら作画していったプロセスと「共感して、没入してみてもらうこと、それだけを考えて描いていった」と振り返ります。
また望月監督は、「現実に起こり得るないことが出てこない」世界のなかで、「人間の芝居がちゃんとできていること、それは実写であれば人間の芝居そのものなのだけど、そのまま紙に描いてリアルになるのではない」と実写とアニメーションのものづくりの違いについて言及し「リアルに見えることはものすごい”つくりごと”で、創作的なこと」と、アニメーションをつくること、ものづくりの本質的な面白さについて触れさせてくれたように思います。
ビジュアルブックも発売「現存している全てのものが載っている」
30年ぶりに作品をみての感想・手応えを改めて問われ、近藤さんは「いいところもあれば、もっとこうすればよかったと思うところもあるが感慨深く見ました。素直に面白かったし飽きずに見られる作品だなと思った」と柔らかい表情で応えます。
「(一番手応えを感じたのは)作品にジブリのオープニング、トトロのマークがくっついてた時ですね。非宮崎・高畑作品がちゃんとできた、完成できたこと」と語る望月監督に、この企画が当時考えられないものであったか、制作スタッフが感じていたプレッシャーの重さを少なからず感じさせました。
今回、30年の時を超えて、ビジュアルブック「海がきこえる THE VISUAL COLLECTION」が発売となりました。
https://www.ghibli-museum-shop.jp/i/9784867910276
“現在集め得る限りの膨大なビジュアルを惜しみなく投入されています” とされるこのビジュアルブック。望月監督は「カタログ的なものが好きで(笑)。今回は現存している全てのものが載っています。近藤さんが描いてくれた色紙なんかも。ぜひ手に取っていただきたい」とファンに向けてメッセージを送りました。
最後に、来場してくれた人へのメッセージとして、近藤さんは「皆さんと一緒にまた作品を観れたことをとても嬉しく思います。ありがとうございました」と感謝を述べました。
また望月監督は、CG技術の進化で変わりゆく映像表現に触れつつ「それに比べると100%手で描くということはそれ以上進化しないもの、古くならないなと考えたりした」と手描きの価値を再認識したことに触れ「映画祭で上映されるのは初めてのこと。本当に驚いています。一人でも多くの人に見てもらえるのは、冥利に尽きます。ありがとうございました」と締めくくりました。
観客と一緒に作品を振り返る貴重な時間となり、手描きアニメーションが持つ普遍的な魅力を再確認できる時間でした。